ひとりごと、プチ日記
目が覚めて、外に出るともう太陽は1番上まで登っていた。
熱と湿気がこもった風をうけて
着替えたばかりのTシャツに、じんわりと汗が滲む。
だる〜い気持ちでいっぱいになって、また家の中に入ろうかと思った。
でも、家の中に入ることも躊躇してしまうほど
寝ても覚めてもいつもと変わらない光景ばかりが続いて
玄関前に停めてある私の車はいつも通り薄汚れていた。
玄関にはいつも通りサボテンがいた。
でも、土はカラカラにひび割れていた。
思い出した。
家の裏の植木にも、しばらく水をあげていないこと。
最近ベランダに植えたミニひまわりとラベンダーのあまりの成長の早さに愛くるしくなり、溺愛。外で暮らす植木たちのことをすっかり、忘れてしまっていた。
さっそく、私はとぐろ巻いたホースを引っ張って
まず玄関前のサボテンや、植木に水をやった。
サボさんは相変わらずおっきな花を咲かせていた。
涼しいベランダの新人さんたちを溺愛してうつつを抜かし、過酷な外の住人にムチを打つひどい鬼が主人でも、
こうして強く生きている。
サボさんのことも、大好きなんだよ。と思いながら水をあげた。
たぶん、あの様子からすると伝わっていないだろう。
サボテン以外の植木鉢に植わっている植物は
何が植わっているかわからないものばかりで、枯れているのか生きているのかもわからない。
たぶんほとんど、枯れていた。
たぶんだけど、それに関しては私のせいじゃない。
サボテン以外の植物たちは、いつの間にか増えたり、減ったりするのだから。
サボテンの隣近所はなんとも出入りの激しい家ばかりなのだ。そして、私の知る限り、その家に住んだ植物はほとんどが枯れるという訳あり物件なのだ。
土が悪いのかもしれない。いや、そもそも、何も植えていなかったのかもしれない。うん年前に枯れたものがそのままになっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、たぶん枯れている植物にも水を与えた。
私の車にも水をかけてブラシでこすった。
いつもありがとう。My carっ!!と心から心の中で叫んだ。
裏のホースにつながる蛇口をひねり、
ダッシュで裏の植木のところに向かった。
一刻も早く裏の植木に会いたかった。
だが実は、初対面だ。(植えたのは母。数日前から水くれをしてと頼まれていたのだ。)
案の定、土はひび割れていたが、植木は青々としていた。しかしなかには危ない奴もいた。
植木に引っかかりジョボジョボ音を立てているホースを掴み、
指で押しつぶしながら根元に水を流した。
植木の水あげは割と時間がかかるのだ。
でも、焦らずじっくり、ほんと、すまない。マジで、申し訳ない。と心の中で呟いて1つ1つに水をあげた。
水をあげていると、陽の光が差して、大きな虹ができた。
そして土の中からジワジワジワという音が聞こえはじめた。
そしてカラッカラだった白い土が茶色に変化して
植木たちがしなり始めた。葉がさらに青々とし始めて、もっともっと、と言っているようだった。
太陽が照らし続ける中、私は水をあげ続けた。
ジワジワという音がゴワゴワという音に変わり、
溺れそうなほど水が染み出した。植木たちが
も、もうOK!OK!、、、OK!!!!!!!!
と言っているのがわかったので水をあげるのを中止した。
あー暑いと、思うか思わないかくらいのところで、
風が吹いた。
さっきの熱と湿気のこもった風と違い、
その風は髪と髪の間をひんやりとすり抜け
Tシャツをくぐり、冷たいと感じるくらい涼しい風だった。
そんな風が、優しく何度も何度も吹き、植木を揺らして、そして私のあつ〜い体を冷やした。
この雰囲気的に、植木がありがとう!と言っていた。この雰囲気的に。
プチ外仕事を終えて、
私って植物と会話できるんだなとしみじみぃと思い
いや、普通に人と話がしたいわっ。と自分にツッコんだ。
そして気づいた。
長い間こうやって植木たちと会話したり、
ずっと家に独りでいた自分が、
いつぶりに心から人と話したいって思っただろう。
いつぶりに心から外に出たいと思っただろう。
いつぶりに心から暑い日の風が気持ち良いだなんて思っただろう。
たぶん心から思ったことは一度もなかった。
できる環境にいてもそうしてこなかった。
今年もまたこの季節がやってきた。
毎年毎年エンジョイするぞっ!とかいいながら
暗い過去になって沈んでいっていた夏。
1日が長くて、朝会うことができない両親を夜遅くまで待つのが辛くて怖くてさみしくてしんどかった。独りになりたくないのに、どうしてか、誰とも遊んだりできなかった、夏。なぜか家から離れられなかった夏。これまでエンジョイできなかった夏。1番大嫌いだった夏。
21年目にして、ようやくエンジョイできそうな兆しが見えてきた。